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リョナラー連合主催バトルロワイアル(パロロワ) 039.燃え尽きる翼

深夜の民家の中、純白の翼を持つ忌み子の少女ウルカは目覚めた。

「……ん……んん……」
「アッ、うるか起キタ?」

目を覚ましたウルカにハーピーの少女セレスが声をかける。

「……セレス?私、なんで……」
「エットネ、うるかハてぃあト喧嘩シテ
 気絶シテタンダヨ」
「……喧嘩?
 !……そうだ、あの人間はっ!?」

セレスの言葉を聞いて、自分がなぜ気絶していたのかを
思い出したウルカはがばっと起き上がる。

「……セレス、あの人間はどこっ!?
 ていうか、貴女は無事なの!?何もされてない!?」
「ウン、大丈夫ダヨー。
 アト、てぃあハアソコニイルヨー」
「……えっ……!?」

ウルカはセレスの言葉にぎょっとして、
セレスの指さしたほうに視線を向ける。

「よっ、白いの。邪魔してるわよ」

そこにはウルカを気絶させた、赤髪に漆黒の衣の
勝気な少女ティアが座っていた。

「……お前っ……!」

いきり立つウルカを、ティアは手を上げて制止する。

「おっと、待ちなさいよ。
 私はアンタたちと戦う気はないわ」
「信用できるかっ!
 いきなり現れて私を気絶させておいてっ……!」
「いや、先に手を出したのはアンタでしょ?
 それにアンタが気絶している間、
 アンタにもそっちのハーピーにも手を出してないんだから、
 ちょっとくらい信用してくれてもいいんじゃない?」
「うるさいっ!」

ティアは説得の言葉をかけるが、ウルカは聞く耳を持たずに
袋から炎の剣を取り出し、ティアに向ける。
それを見たセレスは、慌ててウルカを止める。

「待ッテ、うるか!
 てぃあガ私タチト喧嘩スルツモリガナイノハ、本当ダヨ!
 てぃあハうるかヲ気絶サセタ後、本当ハ
 ソノママココカラ出テイクツモリダッタノ!」
「じゃあ、何でコイツがここにいるのよ!?」
「私ガココデ休ンデイケバッテ言ッタカラダヨ」
「……は?」

ウルカはセレスの言葉に首を傾げる。

「……アンタ、何でコイツにそんなこと言ったのよ?」
「エットネ、てぃあハ怪我シテタノ。
 ダカラ……」
「……いや、そうじゃなくて。
 敵に『ここで休んでいけ』って言う意味が
 さっぱり分からないんだけど……」
「……てぃあハ敵ジャナイヨ。
 サッキハうるかト喧嘩シチャッタケド、
 チャント話セバうるかモ分カルト思ウヨ」
「…………」

セレスの言葉を聞いたウルカは沈黙する。
そしてしばらくすると溜息を吐いて、ティアに顔を向けた。

「……まぁいいわ。
 私にもセレスにも何もしていないってのは
 本当みたいだし、このまま私たちの前から
 消えるのなら見逃してやるわよ」
「……そりゃどーも。
 んじゃ十分休ませてもらったし、私は行くとするわ」

ウルカがティアを受け入れる可能性は低く、
ティアも師匠のダレスを探すことが最優先である以上、
こうなることは予想できたことだった。

それでも、セレスはティアが同行してくれることを
期待していたので、少し落胆してしまった。

「……さっきも言ったけど、赤髪赤服の男に気を付けなさい。
 もし出会っても絶対に戦っちゃ駄目よ。万に一つも勝てないから」
「ウン。一緒ニ行ケナイノハ残念ダケド……。
 マタネ、てぃあ」

再度忠告をしつつ出口へと歩いていくティアを、セレスは見送る。
それに適当に手を振りながら、ティアは民家から出ていった。

それを確認したウルカは、セレスに顔を向ける。

「……セレス、ちょっといい?」
「?……何?」
「貴女が優しい子なのは、よく分かったわ。
 人間に敵意を持っていないのもね」

そこで、ウルカはいったん言葉を止める。

「……でも、私は貴女のようにはなれない。
 私は人間が憎いし、人間と仲良くなれるなんて思わない。
 そんなこと、考えただけで虫唾が走る」
「……うるか……」

ウルカの言葉に、セレスは悲しそうな顔をする。

「……そりゃ、私だって最初は人間の参加者と
 協力して脱出できないか考えたわよ。
 この殺し合いから脱出するつもりなら、
 他の参加者との協力は不可欠だからね」
「……ダッタラ、今カラデモ……」
「……でも、すぐに絶対に無理だと思ったし、
 貴女と出会ったことで人外の参加者もいることが
 分かったから、わざわざ信用できない人間と
 協力するなんて考えは完全に捨てたわ」
「……ウ……」

その言葉に、セレスは余計に悲しそうな顔になる。

ウルカの中にあった、僅かでも人間と協力するという考えが
セレスと出会ったことで消えてしまったという事実を、
セレスは悲しく感じたのだ。

「……ねえ、セレス。
 貴女は私の考えを聞いて悲しんでいるのかもしれない。
 でもね……私だって、同じように悲しいのよ」
「……エ?」

ウルカの悲しいという言葉に、セレスはきょとんとする。

「……私はね、セレス。
 もし私が危険な目にあったら、貴女が私を置いて
 逃げることはあるかもしれないとは思っていたの」
「……ソンナコト……!」
「分かってる。セレスはそんなことしない。
 短い付き合いだけど、貴女がそんな子じゃないことは
 十分に分かったつもりだから」

抗議の声を上げようとするセレスを制して、ウルカは続ける。

「……でもね、セレス。
 私はその代り、他の部分で貴女を信用できなくなったの」
「……エ……!?」

いきなり自分のことを信用できないと言ったウルカに、
セレスは戸惑う。

「ナ……ナンデ……?」
「……分からないわよね。
 じゃあ、聞くけど……セレス、貴女は……
 もし、私とさっきのティアって人間が同時に
 危険な目に遭っていた場合、どっちを助けるの?」
「エ……?モチロン、両方助ケ……」
「もちろん、一人しか助けられない場合よ?
 そんな状況に陥ったとき、セレスはどうするの?
 ……私と、人間の……どっちの命を助けてくれるの?」
「……エ……ソレ、ハ……」

返答に詰まるセレスに、ウルカは目を細める。
そして、セレスから視線を逸らして喋り続ける。

「……セレス、私はついさっきまでは信じていたの。
 貴女が私を見捨てることがあったとしても、
 私と人間を秤にかけて、人間を選ぶはずがないって。
 考える必要も無いと思うくらいに、信じ切っていたの。
 ……でも、今は違う。そんな風には思えない」

ウルカはそこで、セレスから逸らしていた顔を
あらためてセレスへと向ける。

ウルカの瞳は、セレスを見定めるように、そして同時に
セレスに縋るように、セレスの顔を映していた。

「ねえ、セレス……貴女は私と同じじゃなかったの?
 私は貴女と人間なら、必ず貴女を選ぶつもりだった。
 そんなこと、確認するまでもなく当然のことだと思ってた。
 でも、貴女は……貴女には、そんなつもりはなかったの?」
「!?……ワ……私、ハ……!」

ここに至って、セレスはようやく自分が知らないうちに
ウルカを傷付けてしまっていたことに気が付く。

しかし、それが分かっても、セレスの口からは言葉が出てこない。
セレスにとっては、まさか自分がティアに親切に接した結果、
ウルカを傷付けることになるとは思ってもみなかったのだ。
謝るにしても、一体何を謝ればいいのかが分からなかった。

「……答えてくれないのね」

セレスの様子を見て、ウルカは失望したように呟く。
その呟きに悲しみと疲れを感じ取ったセレスは慌てる。

「マ……待ッテ、うるか……!」
「……いいのよ、セレス。悪いのは私だから。
 私が勝手に、私と貴女が同じだと思っていただけ。
 ……私が勝手に期待して、勘違いしていただけだから」
「……ア……」

そのまま、セレスは何も言えずに黙ってしまう。
ウルカもそれ以上セレスに話しかけることはなかった。

本当は『そんなことはない、自分たちは同じ仲間だ』と
言うべきだったのかもしれないとセレスは思った。

しかしすぐに、それは無駄だとも思った。

今のウルカにそんなことを言ったとしても、
きっと表面だけの薄っぺらい言葉にしかならない。
それでは、余計に溝が深まるだけにしか思えなかった。

(……ナンデ……?ナンデ、コンナコトニ……)

セレスは胸中で自問自答するが、原因自体は分かっていた。

こうなった原因は、おそらくセレスがウルカの信頼を裏切ったからだ。
それも、ウルカがセレスを受け入れる要因となった根源の信頼をだ。

もちろん、セレスにはそんなつもりはなかった。
セレスはただ、ウルカとティアが喧嘩しているのを見て、
ウルカがティアともっと仲良くなれればいいと
考えていただけなのだから。
セレスがティアにここで休んでいくことを勧めたのは、
ウルカが目を覚ました時に二人が仲直りができるかもしれないと
考えたことも理由の一つだったのだ。

しかし、ウルカはそんなセレスを見て『自分とは違う』と思ったのだ。
ウルカにとっては、人外であるセレスが忌み子の自分と人間のティアを
同じように扱ったことが、ショックだったのだ。

セレスは安易な考え方によってウルカを傷つけてしまったことを
激しく後悔していた。

「……ねえ、セレス」

自省の念に駆られているセレスに、ウルカが話しかける。
それに驚きつつも、セレスはウルカに視線を向ける。

ウルカは一瞬躊躇った後、意を決して口を開く。

「……あなt『ガシャアアアァァァァンッ!!』」

しかし、ウルカの言葉は何かが窓を突き破ってきた音にかき消された。




ウルカとセレスの元を去った後、
ティアは改めて村の中を探索していた。

(……やれやれ、一度気絶してから目を覚ませば
 多少は大人しくなっているかと思ったけど……)

ティアはウルカの激昂した様子を思い出し、肩をすくめる。

(……ありゃ駄目ね。完全に人間を敵視しているわ。
 近くで監視しようかと思ったけど、私がいたら逆効果っぽいし……。
 ま、とりあえずはあのセレスっていうハーピーに任せるとしましょうか)

ティアはそう結論付けて、あの場を引いたのだ。

(……もし次に出会ったとき、あのウルカって忌み子が
 罪のない人間を襲っていた場合は、私が始末を付けてやるわ)

ティアは拳を握りしめて、そう誓う。
セレスのことを考えると複雑だが、そうなった場合は
放っておくわけにはいかない。

見逃した責任も含めて、ウルカの始末はティアが付けるべきだろう。

「……まぁ、そんな仮定の話は今はどうでもいいわ。
 それよりも師匠を探さない……っと!」

ティアは言葉を切って、横に飛ぶ。

そして、先ほどまでティアのいた場所に
幾本もの触手が叩き付けられる。

「……やれやれ、またアンタなの?
 よっぽど私のことが気に入ったのかしら?」

ティアは不意打ちをしてきた相手……触手の魔物ローパーに
挑発の言葉を向ける。

「さっきは油断して不覚を取ったけど……
 今度は負けてやるつもりはないわよ?」

ティアは不敵な笑みを浮かべて、構えを取る。
そんなティアに対し、ローパーは触手をしならせ鞭打とうとする。

「……ふっ!」

しかし、ローパーが触手を繰り出す前に
ティアが一瞬でローパーとの間合いを詰める。

ティアの動きが予想外に早かったのか、
ローパーは慌てた様子で触手をティアに伸ばす。

「遅いっ!」

しかし、ティアは迫りくる触手を全て紙一重で回避する。

「はああぁぁぁっ!!」

そしてローパーの懐に入り込んだティアは、
ローパーに思いきり拳を叩き付けた。

そして。


ごおぅっっ!!


「っっ……!!?」

殴られたローパーは激しく燃え上がった。

ティアがローパーに放った拳は、師匠である炎帝ダレスに
直々に教わった必殺拳『炎拳』だ。

殴った相手を燃やし尽くす炎の拳を受けたローパーは、
しかし身体から大量に粘液を吹き出して、炎を消し止めた。

「ふぅん……なかなか面白いことするじゃない。
 でも、それでいつまで防げるのかしらね?」

ティアは拳を鳴らしながら、ローパーへとにじり寄っていく。
その少女とは思えないティアの迫力に、ローパーはびびる。

先ほどは圧倒できたはずの相手に、今度はぼろ負けしている。
そんな状況に混乱したローパーが取ったのは、逃げの手だ。

ティアに背(?)を向けたローパーはすたこらと逃げ去っていく。

「!……逃がすかっ!アンタはここで仕留めるっ!」

ティアは逃げるローパーを追いかける。

ジョーカーであるローパーをここで逃がすつもりはない。
先ほどこっぴどくやられた分も万倍にして返してやるつもりだった。

……しかし、ローパーを追いかけるために民家を曲がった先で
予想外の人物を見つけて、ティアは足を止めてしまう。

「……な……!?」
「……まさか、一番最初に出会う参加者がお前とはな。
 ローパーが逃げてくるのを見て、強者と出会えるかと
 期待したんだが……」

そこにいたのは、ティアの師匠にして、
この殺し合いのジョーカーである炎帝ダレスだった。

驚愕しているティアに構わず、ダレスはティアに話しかける。

「……まぁいい。
 おいティア、雷神を見かけなかったか?
 もし見かけたなら、その場所を教えろ」
「…………」
「……ティア?聞いているのか?」

黙ったままの弟子に、ダレスは訝しげな目を向ける。
そして、ようやくティアが自分を睨みつけていることに気が付く。

今までずっとダレスに尊敬の眼差しを向け続け、
心酔していると言っても良いくらいに従順だった
ティアの変わり様に、ダレスは僅かに驚く。

ティアはダレスを睨み付けたまま、口を開く。

「……師匠、聞かせてください。
 なぜ、師匠はこんな非道な殺し合いに
 手を貸しているんですか?」
「……何かと思えば、そんな下らんことか。
 雷神と戦うために決まっているだろう?」
「っ!……そのために、私や他の参加者を
 巻き込んだっていうんですかっ!?」

ティアが怒声を上げる。
半ば予想していたこととはいえ、実際にダレスの口から聞くと
抑えきれないほどに怒りが湧いた。

しかし、ティアの怒りにダレスは冷たい目を向ける。

「……あまり俺を失望させるなよ、ティア。
 たかが殺し合いに放り込まれたくらいで、
 何を甘えたことを言っている?
 俺の弟子ならこの殺し合いを勝ち抜いて、
 さらなる強さを手に入れてみせろ」
「……っ!?」

ティアはダレスの言葉の意味が分からず、戸惑う。

しかし、すぐにダレスがティアを殺し合いに巻き込んだのは、
ティアの修行の一環としてだったのだと理解する。

(……そっか……師匠はちゃんと私のことを考えて、
 殺し合いに放り込んだんだ……)

どうでも良く思われていたわけではなかったことに、
ティアは内心ほっとする。
(それでも、事前に説明くらいはしてほしいとは思ったが)

しかし、それはそれとして、ティアのやることは変わらない。

「……私はいくら強さを得るためとはいっても、
 戦う意思もなく巻き込まれただけの人たちと
 殺し合いなんてできないっ!
 こんな非道な殺し合い、私は絶対に許さないっ!」

ティアの怒りの言葉に、ダレスは変わらず冷たい目を向けるのみ。

「……許さない、か。
 なら、どうするつもりだ?」
「……師匠……いえ、ダレスっ!
 私が貴方を倒して、止めますっ!」

ティアのその言葉に、ダレスは不意を突かれたように目を見開く。

「……俺を倒す?……お前がか?」
「……ええ、そうです!私が貴方を倒します!」
「…………」

しばらく、ダレスは無言でティアを見ていた。
しかし、やがて……。

「……くく……くくくくっ……!
 ……はははははははははははははははははっっ!!」

ダレスは笑い始める。
それを馬鹿にされたと見て、ティアが吠える。

「……何がおかしいっ!?」
「……はっ!勘違いするなよ、ティアっ!!
 別におかしくなどないさっ!!」

ティアの怒りに、ダレスは凶暴な笑いを浮かべて答える。
その顔に浮かぶのは、興奮と歓喜。

「お前が俺を倒すかっ!!そうか、そうかっ!!
 いいぞ、実にいいっ!!最高の答えだっ!!
 それでこそ、俺の弟子だっ!!」
「なっ……!?」

ティアは予想外の師の反応に戸惑う。

「殺し合いを許さないなどとふざけたことを
 ほざいたのは、綺麗さっぱり忘れてやろうっ!!
 というより、そんなことはこの際どうでも良いっ!!
 お前が俺と戦うことを選択してくれた時点でなぁっ!!」

ダレスは堪らないという様子で、まくし立てる。
ティアはそんなダレスの様子に呆気に取られるが、
すぐに我に返って、構えを取る。
ダレスはそんなティアを歓迎するように、自身も構えを取った。

「さあ来い、ティアっ!!
 見事、俺を倒して見せろっ!!」
「……言われなくてもっ!!」

ティアは先制攻撃とばかりに、ダレスに突っ込んでいく。
しかし、ティアが動いたと同時に、霞むほどの速度で
ダレスが間合いを詰めてきた。

「っ……!?」
「はああぁぁぁぁぁっっ!!」

虚を突かれたティアに、ダレスは容赦なしに全力で拳を叩き込む。

「くっ!?」

ダレスの全力の拳など、一撃でも喰らえばおしまいだ。
ティアは死にもの狂いでダレスの拳を回避する。

しかし、避けた先に今度は蹴りが飛んでくる。
さすがにそれは避けきれず、ティアは蹴りを喰らってしまう。

「がっ……はっ……!?」
「……っらああぁあぁぁぁぁっっ!!」

ダレスはティアをそのまま民家に蹴り飛ばす。
ティアは民家の窓を叩き割って、中へと突っ込んでいった。




何かが窓を突き破ってきたのと同時に、
ウルカは素早く炎の剣と自分の袋を掴み取り、
窓の傍から飛び退いて距離を取った。

窓を突き破って入ってきたのは、女性だった。
その女性は背が高く、緑色の柔らかい髪を肩まで伸ばし、
へそ出しの赤いタンクトップに黒のショートパンツを着ていた。

「……うふふ……いいわぁ……!
 美味しそうな子が二人も……!
 ああ、よだれが止まらないわぁ……!」

侵入者の女性はその整った顔を赤く上気して蕩けさせ、
興奮しきった様子でウルカとセレスに潤んだ瞳を向けている。

「な……何なのよ、アンタ……!?」

予想外の侵入者の反応に、ウルカは面喰う。

「私……?私はマリシア……!
 貴女たちと今から一つになる存在よ……!」
「……分かった。アンタ、ただの変態ね。
 私にそんな趣味はないから、痛い目に遭いたくなきゃ
 さっさと消えなさい」

侵入者……マリシアに対して、炎の剣を突きつけて
ウルカは警告する。

「ふふ……つれないこと言わないでよぉ……!
 もう、我慢できないのよぉ……!」

そこで、マリシアの腹に亀裂が入る。
……そして、次の瞬間には、ガバっと腹が裂け、
牙だらけの毒々しい赤色の口腔が開かれた。

「なっ……!?」
「ヒッ……!?」

その恐ろしい異形の姿にウルカは驚愕し、
セレスは怯えた声を上げる。

(……まさか……コイツも忌み子っ……!?)

ウルカは目の前の異形の女性が自分と同じ忌み子であると理解したが、
だからといって、さすがに自分たちを襲うつもり満々の危険人物と
同盟を結ぶ気にはなれない。

ウルカがそんなことを考えているうちにも、マリシアは二人に
蕩けた笑みを向けながら、にじり寄っていく。

「……さぁ……!さぁ……!
 私と……一つに……なりましょうねええぇぇぇっっ!!」
「くっ……!」

迫りくるマリシアに、ウルカは炎の剣を振りかざす。
剣から放たれた炎の雨がマリシアの腹の口に叩き付けられるが、
マリシアは意に介さず、ウルカへと突進する。

(……そんなっ……!?コイツ、炎が効かないっ……!?)

炎の雨をまともに喰らったにもかかわらず、
勢いを緩めないマリシアに、ウルカの対応が遅れる。
ガバアッ!!と巨大な口腔がウルカを噛み砕かんと迫り……。

「……うるかっ!!」

しかし、そこで突如発生した竜巻によって、マリシアが吹き飛ばされる。
セレスが放った風の魔法トルネードだ。

「大丈夫、うるかっ!?」
「え、ええ……ありがとう、セレス……」

先ほどまで言い争っていたことも忘れて、
ウルカは助けてくれたセレスに素直に礼を言う。

「いったぁ~……!もう、ちょっとびっくりしたじゃないのぉ……!」

セレスのトルネードで吹き飛ばされたマリシアは、
頭にたんこぶを作って、涙目になりながら戻ってくる。

それを見たウルカはセレスの傍へと移動する。

「……セレス、私が前に出てアイツと戦うわ。
 貴女は今の魔法で援護してくれる?」
「……ウン、分カッタ。気ヲ付ケテ、うるか」
「無理はしないわよ。……それと、セレス……」

ウルカはセレスの耳に口を寄せて、何事かを小声で呟く。
それにセレスが頷いたのを確認すると、ウルカは炎の剣を鞘に納め、
代わりにシルフの槍を取り出して構える。

(……あの腹の口に近づくのは危険だわ。
 ヤツには炎も効かないみたいだし、リーチの長い槍で
 間合いを広く保ちながら戦わないと……)

マリシアの巨大な腹の口への驚きから回復して
いくらか冷静になったウルカは、マリシアに対しての
有効な戦術を脳内で組み立てていた。

「まったく……おイタが過ぎるわよ、貴女たち……!
 良い子だから、大人しく私に食べられちゃいなさいよ……!」
「はっ、お断りよっ!アンタは砂でも齧ってなさいっ!」

ウルカは槍を突き出して、マリシアに突進する。

「ふふっ、どこを狙っているのかしら?」

しかし、それはあっさりとマリシアに避けられる。
マリシアは余裕の笑みを浮かべているが、ウルカの狙いはまさにそれだった。

「今よ、セレスっ!こっちに来なさいっ!」
「ウ……ウン、分カッタッ!」

ウルカに呼ばれたセレスはすぐさま翼を広げて、
狭い民家の中を飛んでいき、ウルカの元へとたどり着く。

(?……場所を移動して、何をするつもりなのかしら?)

訳が分からない、とマリシアは首を傾げる。
しかし、ウルカとセレスの位置が出口から近いことに気が付き、
ああ、と納得する。

(……なるほど、逃げる気なのね。
 ふふ……残念だけど、そう簡単に逃がしはしないわよ?)

マリシアは二人を逃がさないように、突進の構えを取る。
二人が逃げようとした瞬間、一気に間合いを詰めて
噛み砕いてやるつもりだ。

(さあ……!逃げれるものなら、逃げてみなさいっ!)

不敵に笑って身構えるマリシアを前に、
ウルカとセレスは民家の出口へと走り出した。

それを確認すると同時に、マリシアは二人に
凄まじい勢いで襲い掛かる。

「逃がさないわよおおぉぉぉぉっっ!!」

腹の口を全開にして、マリシアはまずウルカを噛み砕こうとする。
しかし、ウルカがマリシアの口に向かって炎の剣を鞘ごと投擲したため、
それは失敗に終わる。

マリシアは舌打ちしつつも、炎の剣を吐き出して二人を追う。
しかし、いざ追いかけようと民家を出たところで、
そこにはウルカが槍を構えて待ち構えていた。

「……あら、貴女一人なの?
 もしかして、お友達を逃がすために
 貴女がオトリになったのかしら?」
「さて、どうかしらね?
 そんなことより、よそ見してるヒマはないわよっ!」

ウルカはそう言うと、マリシアに向かって槍を突き出す。
それを危なげなく回避しながら、マリシアは反撃とばかりに
無造作に腕を振るった。

マリシアの腕がウルカに叩き付けられ、その見た目からは
想像できない重い衝撃に、ウルカの身体が吹っ飛ぶ。

「ぐっ……!?」

吹っ飛んだウルカは、しかしすぐに翼を羽ばたかせて
空中で体勢を整えて着地する。

「……へぇ、貴女の翼ってちゃんと飛べるのね?
 忌み子って無意味な身体のパーツがついてることが
 多いから、てっきり飛べないものだと思っていたわ」

感心したように呟くマリシアに、ウルカは痛みを堪えながら返答する。

「お生憎様ね……!ちゃんと飛べるし、むしろ地上戦より
 空中戦のほうが得意なのよ、私『たち』は……!」

ウルカの言葉と同時に、マリシアの頭上に影が差す。
はっとマリシアが影の差す方向に顔を上げると、月明かりに照らされた
鳥の精霊の少女がマリシア目掛けて急降下してくるのが目に入った。

セレスは逃げたわけではなく、
空から奇襲の機会をうかがっていたのだ。

「ちっ……!」

マリシアは突っ込んでくるセレスの攻撃を回避する。
しかし、反撃しようと体勢を整えたころには、
セレスは既に上空へと退避していた。

仕方なくマリシアは標的をウルカに向けようとするが、
既にウルカの姿はそこにはない。

(!……しまったっ!?)

マリシアがバっと視線を空に向けると、
そこには空高く羽ばたくウルカの姿。

ウルカとセレスは逃げるために民家を出たわけではなかった。
自分たちの独壇場である空で戦うために、外へと移動したのだ。

マリシアの視線を受けたウルカは不敵に笑う。

「……さあ、ここからが本番よっ!」

こうして、翼を持つ少女たちの反撃が始まった。




ティアを民家へと蹴り飛ばしたダレスは吠える。

「どうした、ティアっ!!?
 まさか、その程度で終わりじゃないだろうっ!!?
 早く立ち上がって、俺に反撃して来いっ!!」

ごおおぉぉんっっ!!

ダレスの声に応えるように民家の壁が爆炎に吹き飛ばされ、
燃え上がる炎と共にティアが飛び出してくる。

「ししょおおおおぉぉぉぉぉぉっっ!!」

鬼気迫る表情で突っ込んでくるティアに、
ダレスは凶暴な笑みを浮かべる。

(……いいぞっ!!それでこそだっ!!)

歓喜と興奮に身体を震わせながら、
ダレスはティアを迎え撃つ。

ティアは炎の拳でダレスに乱打を浴びせるが、
ダレスはそれを避け、または受け止めながら、
反撃とばかりにティアの顔面に肘を叩き込む。

ティアはそれを頭を傾けて回避し、
そのまま頭突きをダレスに叩き込む。

ダレスはそれを回避せず、自身も頭突きによって迎え撃った。

ガアァンっ!!

お互いの頭蓋が鈍い音を立てる。

「……がっ……!」

そして、ティアのほうは衝撃に耐えられなかったのか、
よろよろと膝を付いてしまう。

ダレスのほうもノーダメージとはいかなかったようで、
僅かによろめいて顔を顰めるが、すぐに体勢を整えて
ティアに拳を放つ。

「ぐっ……!」

ティアは拳をまともに受けて数メートル吹っ飛ぶが、
ダレスにも頭突きの影響が残っていたのか、
それほどのダメージは無い。

軽く頭を振って意識をはっきりさせると、
ティアは再びダレスに向かっていく。

「ふん、随分とがむしゃらに向かってくるなっ!!
 正面からまともに打ち合って俺に敵うと思っているのかっ!!?」
「……はっ、誰がまともに打ち合うって言いましたかっ!?」
「……何っ!!?」

ティアはダレスの間合いに届く前に、懐から石を取り出してそのまま砕く。
すると、ティアの姿が五つに分身する。

(……幻影の魔石かっ!!)

僅かな間だけ実体のある己の幻影を四つ作り出し、
戦わせることができるイリュージョンの魔法が
込められた魔石。

(……面白いっ!!)

ダレスは獣のような笑いを浮かべて、五人のティアを迎え撃つ。
ティアたちはダレスに連撃を浴びせるが、それらはダレスに
軽く捌かれてしまう。

幻影の動きは本体よりも数段劣る。
ティア本体ですら、ダレスにまともに攻撃を当てることは
難しいというのに、その幻影では結果は言わずもがなだ。

しかし、ダレスはすぐに気がつく。
いつの間にか、この場にティアが四体しかいないことに。

(……なるほど……幻影たちはオトリか……)

ダレスがティアの狙いを看破するのと同時に、
頭上に気配を捉える。

視線を上げると、そこには宵闇の衣によって
夜の闇に紛れたティアの姿。

「っ!」

奇襲を見抜かれたティアは痛恨の表情を浮かべる。

宙ではダレスの攻撃を回避することは不可能。
ならば、攻撃を受け止めて凌ぐことになるが、
この場面でダレスが簡単に受け止められるような
生易しい攻撃をしてくるはずがない。

「さあっ……!凌いで見せろ、ティアぁっっ!!」

ダレスの拳が燃え盛る炎を纏う。
『炎帝』の呼び名の所以となった炎の必殺拳『炎拳』だ。

「うおらあぁあぁぁぁっっっ!!!」

ダレスは空中のティアに全力で、己の必殺の拳を叩き込んだ。
夜の闇がダレスの凄まじい炎の嵐を浴び、赤く照らされ塗り潰される。

その渦中で強烈な地獄の業火を叩き付けられたティアは
一瞬にして、その身をかき消した。

(……何っ!?かき消えた、だとっ……!?)

おかしい。
いくらダレスの炎が強力とはいえ、一瞬で人体を炭化させ、
ボロボロの炭クズにできるはずがない。

と、その時ダレスの顔面に強烈な炎の拳が叩き付けられた。

「ご、がぁ、あぁぁぁっっ!!?」

殴られたダレスは一瞬にして燃え上がり、
そのまま殴り飛ばされる。

「……へへっ……!油断大敵ですね、師匠っ……!」

ダレスを殴り飛ばしたのは、もちろんティアだ。
ティアは幻影の一体に宵闇の衣を被せて上空から奇襲をかけさせ、
自身は他の幻影と共にオトリとしてダレスと戦っていたのだ。

もちろん、自分が本体だとばれないように動きを
幻影のレベルに合わせた上でだ。

(正直、師匠なら動きの不自然さで見破っちゃうかもって
 心配だったけど……夜で暗かったのが有利に働いたかな?)

そもそも夜でなければ、宵闇の衣を利用して幻影に奇襲を
かけさせることもできなかったのだ。

戦いの場が夜であったことはティアにとって、
有利に働いていた。

……もっとも、それも今までは、の話だが。

「……く、くくっ……!はははははははっ!!
 素晴らしいっ!!見事だぞ、ティアっ!!
 小細工をしたとはいえ、この俺にまともに
 一撃を浴びせるとはなぁっ!!」
「……っ!」

立ち上がったダレスを見たティアは、すぐに身構える。

(ちっ……!あの程度で倒せるとは思ってなかったけど……!)

ダレスのぴんぴんした様子を見る限り、
思った以上にダメージが通っていないようだ。

(……さて、どうするかな……!
 幻影の魔石はまだ一つ残ってはいるけど、
 宵闇の衣は師匠の炎で燃えちゃったし……!)

ティアは悩むが、たとえ宵闇の衣が燃えていなかったとしても、
あのダレスに同じ手が通用するとは思えない。

(……いいわ、ここからは小細工抜きでやってやるっ!
 たとえ刺し違えてでも、師匠だけは止めてやるっ!)

覚悟を決めたティアは防御を捨て、攻撃のみに意識を集中させる。

生半可な攻撃ではダレスは倒せない。
ならば、先ほどのクリーンヒット以上の強力な攻撃を
叩き込むしかない。

そして、そんな強力な攻撃を今のティアが放つには、
防御に意識を割いていては叶わないのだ。

ティアの決死の覚悟を見て取ったダレスは嬉しそうに笑う。

「くくっ……良い覚悟だっ……!
 ならば、俺も付き合ってやろうじゃないかっ……!」

そう言って、ダレスはティアと同じように
防御を捨てた攻撃偏重の構えを取る。

それを見たティアは、こんな状況にも関わらず苦笑する。

(……相変わらずだなぁ、師匠は……)

ダレスがティアに付き合う必要などない。
ダレスからすれば、ティアの大振りの一撃を回避したところで
体勢を崩したティアにトドメの一撃を叩き込めば良いだけなのだから。

しかし、ダレスはあえてティアのやり方に合わせて
それを打ち破るつもりなのだ。

ダレスのその不器用な戦法は戦いをより楽しむためのものであり、
またダレスなりの相手の覚悟に対しての敬意でもあるのだ。

その呆れるほどの愚直な姿は、まさにティアの知るダレスそのものであった。

(……結局、師匠は相変わらずの師匠のままってことか……。
 何が変わったわけでもない、雷神も殺し合いも関係なしに、
 最初っからこういうロクデナシの格闘馬鹿なんだ……)

何か納得したような気分になり、ティアの心が軽くなる。

(……師匠が間違ったことをしているなら、
 弟子の私がちゃんと止めてあげないとね……。
 ……まったく、普通は逆のはずなのに……)

やれやれ、ロクデナシの師匠のせいで、
弟子の自分は随分と苦労するものだ。

ティアは心の中で溜息を吐きつつも、
決着を着けるべく構えを取る。

(……さて……やるか……!)

ティアは全身に力を漲らせ、ダレスに意識を集中させる。
ダレスも同じく、力を溜めてティアを迎え撃つ体勢を取る。

「……はああぁぁぁぁっっ!!」
「……うおおぉぉぉぉっっ!!」

そして、炎の師弟はお互いにぶつかり合い、
相手に最後の一撃を叩き込んだ。




戦いの場を移した後のウルカ・セレスとマリシアの戦いは
一転して、マリシアの防戦となっていた。

マリシアは空に対しての攻撃手段を持っていないため、
二人が近づいて攻撃してきた時にカウンターを放つしかない。

しかし、先ほどからウルカがマリシアに突っ込み、
それを援護するようにセレスのトルネードの魔法が
マリシアを襲っていた。

手出しのしようのない空からの隙の無い連携によって、
マリシアは完全に封殺されていたのだ。

(ちっ……!鬱陶しい戦い方をするわね、この子たち……!)

マリシアは苛立たしげに、二人の翼の少女を睨む。

(……でも、さすがにこれじゃ埒が明かないわね……!
 こうなったら、いったん逃げるべきかしら……!)

一時撤退を考えたマリシアは逃走経路を探すために周囲を見回す。
と、そこで視界の隅にあるものを見つける。

(……ふふ、なるほど……あれは利用できそうね……)

打開策を思いついたマリシアはほくそ笑む。
そして、再びウルカが突っ込んできた瞬間に
マリシアはあえて正面から突進していった。

「なっ……!?」

虚を突かれて驚くウルカだが、すぐにセレスのトルネードが
マリシアにまともに叩き付けられ、マリシアは吹っ飛ばされる。

そのままマリシアは民家の壁を突き破って、瓦礫に埋もれてしまった。

「……や、やったの……?」

ウルカはそう呟くが、どうにも合点がいかない。
一見、マリシアが一か八かウルカを倒そうと防御を捨てて
攻撃してきたようにも見えるが、それでウルカを倒せるとは
マリシアも思っていなかったはずだ。

セレスの援護は今まで完璧だった。
そのセレスが攻撃を外すことに賭けて、あの手強いマリシアが
自爆覚悟の特攻を仕掛けてくるとは思えなかったのだ。

ウルカが考え込んでいると、セレスが降りて来て話しかけてきた。

「……うるか、終ワッタノ……?」
「……まだよ、セレス。油断しないで。
 私が確認してくるから、貴女はそこで待っていて」
「……ウン、気ヲ付ケテネ」

セレスに待機するように言うと、
ウルカはマリシアの生死を確認するために
半壊した民家へと近づいていく。

しかし……。

「……キャアアァァァッ!!?」
「!?……セレスっ!?」

背後から聞こえてきた悲鳴に、ウルカは慌てて振り向く。

そこには、幾本もの触手に捕えられたセレスの姿。
それはジョーカーの一人、ローパーの触手だった。

ローパーはティアに敗れて逃走した後、ずっとウルカたちの
戦いを隠れて見ていたのだ。

そして、戦いが終わった後の隙を突いて触手を伸ばし、
手近なセレスを捕えたのだ。

「くっ……!この触手、セレスを離しなさ……!」
「まぁまぁ、触手はあっちの子に譲っときなさいよ。
 貴女は私がしっかりと満足させてあげるから♪」
「っ!?」

耳元で聞こえてきた声に驚愕してウルカが振り向くと、
そこには、毒々しい真っ赤な口腔。

(……しまっ……!?)

ウルカはすぐに下がろうとするが、間に合わずに
槍を持った右腕に喰らいつかれる。

「あ、ぐっ……!?」

バキベキグシュヂュグブチブチブチィィッッ!!!

「い、ぎぃぃっあああぁあぁぁぁぁぁぁっっっ!!!?」

右腕を喰いちぎられて、激痛に絶叫するウルカ。

「……う、るかっ……!?ア、グッ……!」

ウルカの絶叫を聞いたセレスは必死にウルカの元へと
駆け寄ろうとするが、触手に締め上げられて呻き声を上げる。

それを尻目に、マリシアは喰いちぎったウルカの右腕を
ゴクンっ!と音を立てて飲み込む。
すると、ウルカたちとの戦いで負ったマリシアの傷がみるみる回復していく。

喰らったものを一瞬で消化してエネルギーにすることが可能なマリシアは
食事をすることで傷の超回復を可能とするのだ。

傷を回復し、僅かながらも腹を満たしたマリシアは
上機嫌な様子でウルカの頭を足でぐりぐりと踏みつける。

「あはははっ!ナイスよ、触手君♪
 貴女のおかげで、ようやくこの小生意気な天使ちゃんに
 オシオキができたわ♪」

マリシアは、楽しそうにカラカラと笑う。

「う、ぐぅっ……あ、あぁぁぁっ……!」

喰いちぎられた右腕の傷口から夥しい血を流しながら、
ウルカは激痛に脂汗を流しながら身体を震わせている。

「うふふ、痛い?痛いわよね?腕が取れちゃったんだもんねぇ?
 本当ならすぐに食べて私の一部にしてあげるところなんだけど、
 貴女、ちょっと手こずらせてくれたから、食べちゃう前に
 もう少し虐めてあげるわね♪」

そう言って、マリシアはウルカの頭から足を退けると、
そのまま右腕の傷口を思いっきり踏みつけた。

「あ、がっ!!?あぎいああぁぁぁぁあああぁぁぁっっ!!?」
「あは、あはははっ!ほらほら、痛いでしょっ!?
 もっと泣きなさいっ!その可愛い声で私を楽しませなさいっ!」

マリシアは頬を上気させて、ウルカの右腕を踏み躙る。
ウルカはあまりの激痛に耐え切れずに泣き叫び、のたうち回る。

「あ、ぎぃ、あぐああぁぁああぁぁぁぁぁっっ!!?」
「う、るかっ……!うる、かぁっ……!」

セレスはウルカを助けるために触手を振りほどこうともがくが、
ローパーはそれを許さずに、セレスの首を締め上げる。

「ガッ……!?ゲ、ホッ……ゴホッ……!」

首を思いきり締め上げられたセレスは苦しさに
目を見開き、逃れようと必死にもがく。

しかし、ローパーはもがくセレスをさらに触手を
絡ませて押さえ付け、全身を骨が軋むほどに締め上げる。

「……ア……ア、ァ……アァァ……!」

全身を締め上げられる激痛と苦しさに
セレスの意識が遠退いていく。

ウルカを助けるどころか、セレス自身の命すらも
危うい状況に陥っていた。

「うふふ、触手君もなかなか良い趣味してるわね♪
 私も負けてられないわ♪」

マリシアは触手に締め上げられて苦しんでいるセレスを
楽しそうに眺めながら、ウルカの髪を掴んで顔を上げさせる。

「ひ……ぐっ……!」
「あらあら?どうしたの、その情けない顔は?
 さっきまでの威勢の良い貴女はどこに行っちゃったの?」

マリシアはにこにこしながら、ウルカにぐいっと顔を近づける。

「……は、あ、ははっ……!あ、アンタの、にやけた顔が
 あんまりにも、気持ち悪、くて、引いちゃった、だけよっ……!」

ウルカは脂汗と涙を流しながらも、痛みと恐怖を押し殺して
マリシアを馬鹿にするように言い返す。

そんなウルカに、マリシアは愛おしそうな笑みを向ける。
明らかに自分に怯えながらも強がっているウルカの様子に、
可愛らしさを感じたからだ。

「……うふふ、そうそう♪
 そうやって生意気な態度を取り続けてくれなきゃ
 虐め甲斐がないものねぇ♪」

マリシアはウルカのうなじにゆっくりと顔を近づけると、
ウルカの首筋から顔にかけて、べろりと舌を這わせた。

「……~~~っっ!!?」

いきなり身体を舐め回されたウルカはおぞましさに
身体を固まらせる。

「……う~~ん、やっぱり貴女って美味しいわ……♪
 さっき右腕を食べたときも思ったけど、綺麗な子は
 見た目通りに味も最高なのねぇ……♪」
「ぐっ……うぅっ……!は……離せぇっ……!この、変態っ……!」
「うふふ……い・や・よ♪
 貴女はじっくりと味わって頂かせてもらうんだから♪
 ゆーっくりと、少しずーつ、噛み砕きながら、ねぇ……?」

ウルカの頭を優しく撫でながら、ウルカの顔を覗き込んで
マリシアは興奮して蕩けきった顔で呟く。

「……っっ……!」

その瞳にどろどろとした加虐的・猟奇的な情欲を感じたウルカは
そのあまりの恐ろしさとおぞましさに顔を青くする。

(だ、駄目……!ここで恐怖に飲まれたら……!
 冷静に、反撃の機会を見つけないと……!)

と、そこでがばっとマリシアの腹の口が開き、
ウルカの全身を包み込む。

「……ひっ……!?」
「さあ……お楽しみの時間よ、天使ちゃん……!
 簡単には死なないように、少しずつ食べてあげるから、
 さっきみたいに可愛い声で泣いてちょうだいねぇ……!」
「あ……あ、あぁ……!?」

マリシアの毒々しい口腔がウルカをゆっくりと、
しかし決して逃がさないように包み込んでいく。
暖かくべっとりとした口腔にがっちりと捕えられたウルカは、
これから捕食されるのだという事実を嫌でも実感させられ、
その身体が本人の意思とは関係なくガタガタと震え始めた。

(……れ……冷、静に……!反、撃の……機会、を……!)

しかし、ウルカの白い肌にマリシアの大きく鋭い牙が
僅かに刺さったとき、ウルカの精神は限界を迎える。

「……い……やっ……!?」

ウルカは目を見開き、絶叫する。

「……いやああぁぁあぁあああぁぁぁぁっっ!!?
 やだぁ、やめてっ!!?たべ、食べないでえぇぇっっ!!?
 やめてやめてやめて、やだっ!!?いやだあぁぁぁぁっっ!!?
 ごめんなさいごめんなさい、やめてやめてやめてえぇぇぇっっ!!?」

狂ったように、子供のように泣き叫ぶウルカ。
その様子に、マリシアは感極まったように身体を震わせる。

「……あぁぁ~……!いいっ……いいわぁ……!
 綺麗で可愛い女の子が恐怖に耐え切れなくなって
 必死に泣き叫ぶ声って、何回聞いても最高だわぁ……!」

マリシアは興奮のあまり、だらけ切った口から
涎を垂らしながら、身体をびくびく震わせている。

そして、ウルカを捕えている腹の口がゆっくりと閉じていき、
ウルカの身体にマリシアの牙が少しずつ刺し込まれていく。

「いやだっ、いやだあぁぁああぁぁぁぁっっっ!!?
 助けっ……、誰かっっ!!?誰かっ、誰かあぁぁぁっっ!!?
 お願っ……何でも、するからあぁっっ!!?だから助けてええぇぇぇっっ!!」

拷問のようにゆっくりと近づく死の恐怖に耐えられず、
ウルカは恥も外聞もなく泣き叫び、助けを求める。

(……う……る……、か……)

一方のセレスはローパーの触手に締め上げられ、
ほとんど意識がなくなっていた。

朦朧とする意識の中、セレスは考える。

どうすれば、ウルカを助けられるのかを。

ウルカを助けるためには、触手が邪魔だ。
しかし、自分の力では触手を振りほどくことはできない。

このままでは、ウルカがあの緑髪の女に食べられてしまう。

(……ソレ、ハ……ヤダ……ナ……)

自然界で生きるセレスは、仲間のハーピーが
魔物に食い殺されるところを一度見たことがあった。

そのときの仲間が喰われていく様子は、悲惨で恐ろしいものだった。
今のウルカのように最後まで泣き叫びながら、仲間は食われて死んでいったのだ。

あんな地獄のような光景を、心優しいセレスは二度と見たくはなかった。

(……ア……ソウ、ダ……コレ、ナラ……
 うるか、ヲ……助ケ、ラレル……カモ……)

身体中を締め上げられる激痛と首絞めによる酸欠で
低下したセレスの思考力は、普段のセレスなら
考えもしないような奇策を思いついてしまう。

セレスは残った力を振り絞って、トルネードの魔法を紡ぐ。
意識が朦朧とした状態で紡いだ不完全で拙い魔法はあっさり暴走して、
セレスごとローパーを凄まじい勢いでマリシアのほうに吹き飛ばした。




「……なぁっ!?」

マリシアは驚愕する。

なぜなら、触手に絡め取られたハーピーの少女とその触手の本体が
いきなり自分に向かって凄まじい勢いで突っ込んできたからだ。

マリシアは混乱しつつも慌てて回避しようとするが、
腹の口でウルカを捕えていたせいで間に合わない。

マリシアは飛んできたセレスとローパーを
顔面でまともに受け止めてしまった。

「がっほぉっ!!?」

マリシアは衝撃で吹っ飛ばされる。
それによって、ウルカがマリシアの口から解放された。

「……あ、はっ……!?ひ、ひぃぃっ……!」

ウルカは泣きながら、マリシアから遠ざかるために
四つん這いになって必死に逃げ始める。

しかし、右腕を失ったウルカは上手く移動ができずに
その姿は地面で無様にもがいているようにしか見えなかった。

「う、ぐうぅっ……!
 やってくれたわね、この触手っ……!」
「……っ!?」

一方、マリシアの攻撃対象はローパーへと移っていた。
マリシアからすると、まさかセレスがトルネードの魔法で
自分ごとローパーを吹き飛ばしたなどとは思いつかない。

とすれば、ローパーがウルカに夢中になっていたマリシアの
隙を突いて不意打ちをしたと考えるのが自然だ。

身に覚えのない怒りをぶつけられ、ローパーは狼狽える。
だが、そこでローパーはこう考える。
この女も参加者なのだから、死にぞこないのあの鳥女たちは
放っておいて、今度はコイツを嬲って楽しめば良いのだと。

ローパーは触手を伸ばし、マリシアを捕えようとする。
マリシアはそれを許さず、腕で触手を払いのけながら
ローパーに接近しようとする。

「……私の食事の邪魔をした罪は重いわよ……!
 貴方のような不味そうな魔物なんて口に入れたくないけど、
 我慢して噛み砕いて殺してやるわ……!」

かくして、マリシアとローパーの戦いが始まったのだった。




マリシアとローパーが戦い始めたのを見て、
マリシアの興味が自分から逸れているようだと
気が付いたウルカはいくらか冷静さを取り戻す。

(い……今のうちに回復しないと……!)

ウルカは支給された快癒の魔石を袋から取り出し、砕く。
すると、暖かい光がウルカを包み、傷がみるみる回復していく。
喰いちぎられた腕も再生していき、すぐに元通りに治ってしまった。

(……すごい……!)

ウルカは快癒の魔石の効果に驚く。

快癒の魔石はフルヒーリングの魔法が込められた魔石である。
フルヒーリングはどんな瀕死の重傷も完治させてしまう
高等魔法であり、その使い手は世界に数えるほどしかいない。
それゆえにその魔法が込められた快癒の魔石も希少な魔石であり、
こんな殺し合いで支給するものとしては明らかに度を越した代物である。

だが、魔法や魔道具に詳しくないウルカにはそんなことは分からない。
マリシアから解放され、傷が治ったウルカが次に気にするのはセレスのことだ。

マリシアとは違って、ウルカにはセレスが魔法を使って
自分ごとローパーを吹き飛ばしたのが見えていた。
いくらマリシアに怯えているとはいっても、自分の身を犠牲にして
助けてくれたセレスを置いて逃げるほど、ウルカは薄情ではなかった。

周囲を見渡すと、少し離れたところでぐったりと倒れているセレスの姿を見つける。

急いで駆け寄って、ウルカはセレスの身体を揺すって起こそうとする。

「……セレス、起きてっ……!今のうちに逃げるわよっ……!」

ウルカは何度もセレスを起こそうと身体を揺するが、
セレスは一向に起きようとしない。

それもそのはずで、セレスの怪我はかなり酷いものだった。
ローパーの触手と自身のトルネードの魔法によって、
両方の翼がへし折れ、全身が痛々しい痣だらけになっており、
右足も吹き飛ばされた際にぶつけたのか、変な方向に折れ曲がっていた。

セレスの惨状を改めて確認して、ウルカは息を呑む。

セレスの状態を見る限り、あの救出方法は想像以上に危険だったのかもしれない。
それこそ、一歩間違うとセレスが死んでいたかもしれないくらいに。

(……この子……こんな風になってまで、私を助けてくれたの……?)

こんな大怪我をしてまで、この鳥の精霊は自分を信用できないと
言ったウルカのことを助けてくれたというのか。

「っ……!」

胸に熱いものを感じたウルカだったが、すぐにそんな場合ではないことを思い出す。

ウルカはセレスを背負うと、マリシアたちに気が付かれないように
慎重にその場から離れていく。

幸い、マリシアもローパーもウルカたちに逃げる体力が
残っていると思っていないのか、お互いのことにのみ
意識を集中しているようだった。

かくして、ウルカは絶体絶命の状況から
奇跡的に生き延びることができたのだった。




ウルカがセレスを背負って村から離れた後も、
セレスは一向に目を覚まさなかった。

「……ごめんね……セレス……」

ウルカは背中のセレスに謝罪の言葉をかける。

「……私、さっきセレスのことを信用できないって言ったのに……
 それでも、セレスは私のことを助けてくれて……」

ウルカの言葉に、当然セレスからの返事は無い。

「……私、さっきの化け物に食べられそうになって思い知ったわ。
 殺されるのって……死ぬのって、物凄く怖いことだったんだって。
 ちゃんと理解していたつもりだったけど、本当はそのことを
 全然分かってなかったんだって……」

返事は無い。
構わず、ウルカは続ける。

「……でも、貴女は私のことを助けてくれた。
 自分が死ぬかもしれないやり方で、私のことを助けてくれた。
 それがどれだけ凄いことなのか、今の私にはよく分かる」

やはり、返事は無い。
ウルカはさらに続ける。

「……助けてくれてありがとう、セレス。
 貴女を信用できないって言ったのは取り消すわ。
 私、貴女なら信用できるし、貴女と一緒なら安心できる」

心からの感謝と信頼を込めて、ウルカは呟く。
しかし、変わらず返事は無い。

そこで、とうとう堪え切れなくなってウルカは声を荒げる。

「……だからっ……!!だから、お願いセレスっ!!
 これからも、私とずっと一緒にいてよっ!!?
 私っ……!!始めて、他人を信用できるって思えたのよっ!!?
 貴女なら、何の疑いもなく一緒にいられるってっ!!
 心から、そう……思えた……のにっ……!!」

ウルカは涙声でセレスに懇願する。
しかし、セレスから返事は返らない。

鳥の精霊の少女は、村を出る少し前にその鼓動を止めていた。
ウルカはそのことに気が付きながらも、それを認めたくなかったのだ。

しかし、一向に目を覚まさず、自分の言葉にも返答せず、
夜の冷たい風で徐々に熱を失っていくセレスの身体に、
ウルカはとうとうセレスの死を認めざるを得なくなったのだ。

「……なんでよっ……!?なんでっ……こん、なっ……!
 ……うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

ウルカは膝を落とし、声を上げて泣き始めた。
冷たくなったセレスの身体を背負ったままで、ずっと泣き続けた。




地に伏す影と、それを見下ろす影があった。

地に伏す影は赤髪の少女、ティア。
見下ろす影は赤髪の青年、ダレス。

師弟の命をかけた勝負は、ダレスの勝利に終わった。
しかし、ダレスも決して無傷とはいうわけではなかった。

幻影による奇襲と、最後の決死の一撃。
それによって、ダレスは深手とは言わないまでも
それに近い傷を負い、消耗していたのだ。

「…………」

ダレスの顔に浮かぶのは、極上の戦いを終えた満足感。
そして、それとは相反する寂寥感だった。

弟子のティアは師であるダレスのやり方に異を唱え、
ダレスを止めるために戦いを挑んだ。

そのことに、ダレスは歓喜した。
なぜなら、見込みはあるものの自分と戦う域には
まだ達していないと思っていた未熟者の弟子が
その実は敬意を持って倒すべき強者へと成長していたからだ。

だからこそ、ダレスは全力でティアを倒した。
既にダレスにとって、ティアは弟子ではなく、
対等な存在の強者となっていたからだ。

しかし、同時にダレスは残念にも思っていた。
ティアはまだまだ強くなる見込みがあった。
ここでダレスと出会っていなければ、ティアはさらに成長し、
ダレスすらも圧倒するほどの強者となっていたかもしれない。

だが、たった今、ティアはダレスによって倒されてしまった。
あり得たかもしれないティアの可能性は他ならぬダレスの手で
摘み取られてしまったのだ。

とはいえ、それはティアに限ったことではない。
今までも見込みのある相手を打ち倒したときには
例外なく感じていたことだ。

(……いかんな。弟子として鍛え続けてきたからか、
 いつにも増して感傷的になっているようだ)

ダレスは軽く頭を振って、気持ちを切り替える。

(……ティアと戦っている間、向こうのほうでも
 何者かが戦っている音がしていたな)

もう戦闘は終わっているようだが、
勝ち残った強者に出会えるかもしれない。

初戦から極上の戦いを経験することができたダレスは、
高揚した心持ちで意気揚々と音の方向へと歩き出した。




戦いを終えたマリシアは周囲を見回してウルカたちがいないことを知ると、
イラついた様子で足元のボロ雑巾になったローパーの残骸を蹴り飛ばす。

「ああ、もうっ!!
 この触手のおかげでせっかくのご馳走を
 逃がしちゃったじゃないのぉっ!!」

マリシアは大声でヒステリックに喚き散らす。
しかし、そうしていても仕方が無いと思ったのか、
すぐに大人しくなって、溜息を吐く。

(……それにしても、あの天使ちゃんたち、
 あの怪我でどうやって逃げ出したのかしら?)

少し落ち着いたマリシアはウルカたちが
どうやって逃げ出したのかを疑問に思って、
顎に手を当てて考え込み始める。

(あれだけの重傷なら、私がこの触手を倒す間の僅かな時間で
 逃げられるような体力が残っているはずがないんだけど……)

と、そこでマリシアは自分が背中に担いでいる
袋の存在をようやく思い出す。

「……そういえば、支給品なんてものがあったわねぇ。
 私には必要ないと思って、中身も確認してなかったけど……」

もしかしたら、あの翼の少女たちは傷を回復できるアイテムを
支給されていたのかもしれない。

だとすると、これからは支給品のことも考えて
獲物を追い詰めていかなくてはならない。

それに考えてみれば、あの天使のような少女は最初は炎を放つ剣を使っていた。
マリシアには効き目が薄いようだと分かると、すぐに槍に持ち替えていたが、
ああいった武器も支給されているのなら、ものによっては
マリシアに有効なものもあるかもしれない。

「……そうね。油断大敵ともいうし、使えそうな物が無いか、
 確認くらいはしておこうかしらね」

マリシアはそう呟くと、袋を地面に下ろして中身を確認し始める。

「……あら?」

しかし、すぐに自分のほうに近づいてくる気配に気が付き、
マリシアは支給品の確認を中断して、顔を上げる。

現れたのは、赤髪赤服の青年だった。

「……ほう、その死体はローパーか?
 倒したのはお前か、女?」

青年……ダレスは笑みを浮かべてマリシアに問いかける。
マリシアはそれに答えず、ダレスに冷たい目を向ける。

「……消えなさい。不味い男になんて興味ないわ」

マリシアはその言葉通りにダレスに興味を失ったようで、
中断した支給品の確認に戻る。

「ふん、ジョーカーの前で随分と無防備なことだな」

ダレスは自分がジョーカーであることを告げて挑発するが、
マリシアは変わらず袋をごそごそ漁っている。

その態度にダレスは不満そうな顔をする。

「……貴様、俺を馬鹿にしているのか?
 言っておくが、俺は見逃すつもりなどないぞ」
「……うるさいわね。
 誰かと戦いたいなら、さっき私が逃がした子たちが
 近くにいるはずだから、そっちにしなさい」

マリシアは鬱陶しそうにひらひらと手を振って
ダレスを追い払おうとする。

「……ふん、いいだろう。
 貴様が戦う気を見せないというのなら、
 戦う気になるようにしてやるまでだ」

ダレスはそう言うと、戦いの構えを取る。
それにマリシアはうんざりした顔を見せると、
袋から石を取り出す。

「……ほう、魔石か?
 くくく……どうやら、ようやくやる気になったようだな」

ダレスは嬉しそうに笑うが、マリシアはそんなダレスに
馬鹿にしたような笑いを向けて、手にした石を砕く。

すると、まばゆい光が辺りを包む。

(!?……目くらましかっ!?)

視界を奪われたダレスは奇襲に備えて、
全方位に意識を集中させる。

(さあ、どこからでもかかって来るがいいっ!
 貴様の攻撃を捌き、反撃を喰らわせてやるっ!)

ダレスは戦意を滾らせ、マリシアの攻撃を
今か今かと待ち構える。

しかし、攻撃が来ることはなく、光が収まったときには
マリシアの姿はなかった。

「!?……おのれっ!!逃げたか、あの女っ!!」

期待を裏切られたダレスは怒りを露わにする。

「ちっ……!まだ遠くには行っていないはずだっ!
 覚悟しろよ、腑抜けの臆病者がっ!!
 俺を騙したこと、後悔させてやるっ!!」

ダレスはそう叫ぶと、走ってマリシアを探し始める。
探す方向は、ただの勘である。
何となくこっちに逃げた気がするだけだ。

ダレスは自分の根拠の無い勘を信じて
全力で村を走り抜け、マリシアを探すのだった。




「……ふふ、支給品も意外とすぐに役に立つ時が来たわね」

一方、ダレスから逃れたマリシアは上機嫌に微笑む。
獲物を逃がした苛立ちもダレスをやり込めたことで
いくらか溜飲が下がったらしい。

今マリシアがいるのは先ほどの村ではなく、
さらにいうならD-4エリアでもない。

マリシアが使った魔石は転移の魔石というもので、
あらかじめ登録された場所に転移する効果を持つ魔石だ。

マリシアに支給された三つの転移の魔石には、
転移先のエリアが少し歪な文字で彫られており、
もし登録先が禁止エリアに指定されたとしても、
誤って転移することがないように配慮されていた。

「最初に効果を見たときは微妙なものに思えたけど、
 ああいう鬱陶しいのから逃げるときには有効みたいね」

マリシアは付属の支給品説明書をぴらぴらさせながら、
今頃自分を逃がしたダレスがどんな顔をしているかを想像して、
楽しそうにころころと笑う。

「……とはいえ、さっき逃がした二人を追うのは
 ちょっと難しくなっちゃったわね。
 ま、仕方ないから新しい獲物を探しましょうか」

マリシアは説明書を袋にしまうと、
鼻歌を歌いながら歩き始めた。

……と、途中で一度立ち止まり、腹の口からぺっと何かを吐き出す。

それは、ウルカが右腕に着けていた再生の腕輪だった。

「……あの天使ちゃんの支給品かしら?
 効果は分からないけど、あの子が着けてたものなら
 悪い効果じゃないでしょうし、とりあえずつけとこうかしら」

マリシアは再生の腕輪を腕に着けると、
改めて歩き出したのだった。


【セレス@鳥の精霊ハーピー 死亡】
【ティア@格闘家 死亡】
【ローパー@触手モンスター 死亡】
【残り人数 42名(内ジョーカー6名)】


【D-4/村の近く/1日目 2:00~】

【ウルカ@忌み子】
[年齢]:16
[状態]:悲しみ、疲労(中)
[武器]:なし
[防具]:慈愛の胸当て
[所持品]
・ウルカの袋
 ・基本支給品一式
 ・(不明の魔石1種)
・セレスの死体
・セレスの袋
 ・基本支給品一式
[思考・状況]
1.セレスの死に深く悲しんでいる
2.殺し合いから脱出する
3.人外の参加者(忌み子、精霊)を仲間にする?
  (マリシアと出会ったことやセレスの行動、死によって迷いが出ている)



【D-4/村/1日目 2:00~】

【ダレス@格闘家】
[年齢]:20
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)
[武器]:なし
[防具]:闘士の衣
[所持品]
・ダレスの袋
 ・基本支給品一式
 ・神酒アムリタ×2
[思考・状況]
1.雷神(イリカ)を探して戦う
2.緑髪の女(マリシア)を探して戦う

※D-4の村にはシルフの槍が落ちています。
 また、その近くの民家には炎の剣(鞘付)が落ちています。
※ティアの遺体の傍には
 ティアの袋(基本支給品一式、幻影の魔石×1)
 が落ちています。
(宵闇の衣はダレスの炎で燃え尽きました)
※ダレスのバンテージは炎拳を使ったときに燃え尽きました。



【?-?/?/1日目 2:00~】

【マリシア@忌み子】
[年齢]:19
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[武器]:なし
[防具]:再生の腕輪
[所持品]
・マリシアの袋
 ・基本支給品一式
 ・転移の魔石×2(転移先不明 ※マリシアは転移先を把握)
 ・(不明の武器・防具)
[思考・状況]
1.参加者たちを捕食する
2.天使のような少女(ウルカ)とハーピー(セレス)は
  次に出会ったら必ず捕食する
2.赤髪の男(ダレス)は面倒くさいのでもう会いたくない


『参加者・ジョーカーの現在地』  ※マリシアの現在地は不明
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